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青猫文具箱

本と文房具を愛でる日々。

失敗した引継とそこから学んだ当たり前の3つのこと。または「経験知」。

思考

少し前、古巣に呼び出された。

「君が作ったマニュアルの不備でトラブルがあったが、当時どういう運用してたのか」という非難混じりの事実確認。

自分が異動してからも代替わりしてるはずで「え、今更?」と首をかしげながら古巣に向かった。

 

で、結構衝撃だった。のでその回顧録です。

 

当時自分がしてたのは「自社製品の海外向け文書や約文の確認」。

上司も確認するし、額が大きいものは外部コンサルも使うので、そこそこ重要でも若手が配置される。自分は仮配属が解けたばかりの新人だった。

ちゃんとした引継文化のない会社なので、

  • 歴代担当者による経験知マニュアル(体系だってない。辞書並みの厚さ)
  • キャビネット3段分に渡る参考文献(ほぼ英語)

が担当に与えられる武器で、内容がニッチすぎて研修もない。

それでも幸運だったのは、前任者が引継に熱意ある人で、土日×2回を割いてマンツーマン指導してくれたこと。リンゲルマンの法則*1を引き合いに出され「上司が『あなたが見てるなら見なくていいや』と言う勢いで真剣にやれ。とにかく勉強しろ」と口酸っぱく言われた

配属後半年くらいは大学受験並みに勉強の毎日だった。ちなみに「君を信頼してるから再確認はしない」と新人に言っちゃう上司は想定内でも、外部コンサルは英文法は直しても内容の助言はくれないことを早々に学べた。

 

月日が流れて自分の異動が決まった。私は後任に、自分も前任者から受け継いだマニュアルと参考文献(+増量分)を引き継ぎつつ、もう1つ、自分なりの経験則的なものをまとめた簡易版チェックリストを託した。マニュアルと参考文献の読破は必須条件だけど、慣れるまでの指針になれば良いな、という親切心のつもりで。

英語が苦手らしくキャビネットの英語文献に絶望的な顔をしてた後任は「本当に助かります」と喜んでいた。私も前任に習って土日×3回ほどの時間を割いてマンツーマン指導を行い、それなりに安心して異動していった。

後任も、任期を終えてその後々任に引継ぎ、やがて去っていった。ちなみに後任は地方転勤になってるのもあって呼び出されていない(何となく不条理。)

 

それで、冒頭の衝撃について。

古巣に呼び出された時、驚いたことにマニュアルと参考文献が過去の遺物化していた。

どこをどうすればそれだけで足りると思ったのだろう。後任は、私が初期の指針として託した「チェックリスト」しかまともに引継がなかったらしい

自分が当時肌身離さず持ち歩いていたマニュアルはデスクに仕舞われたまま開かれた様子がなく、キャビネットの参考文献に至っては埃まみれ。一方のチェックリストに、微妙に的外れな補足や加筆がされてるのを見たとき、私の心の中を通り抜けた風は生温かった。

 

そんな訳で今、これを読みながら、その時のことを回顧してる。 

〈新装版〉 「経験知」を伝える技術

〈新装版〉 「経験知」を伝える技術

 

そもそも新人が任されるレベルの仕事なので、本書で取り上げるディープ・スマートほどの経験に基づいて養われた経験知には至らないと思う。でも、考えさせられる部分は多い。

 

・引継期間は最大限確保する。難しくとも「そもそも」の部分は共有する。

短過ぎる引継期間は、一方的な知識の伝達がメインになってしまって、しかも「考え方」より「やり方」中心の伝達だったように思う。

実際やってもらってレビューする時間や、質問を受ける時間、つまりトレーニング期間を設けていなかった。伝達に終始し、伝わったかの確認も怠っていた。

トレーニング期間を設け、知識を共有した上で引継ぎができていれば「ここだけは外しちゃいけないよね」なそもそもの部分をちゃんとシェアできてたはずだ。

私がやるべきだったのは、上司に掛け合って一時的に業務を減らしてもらい、トレーニング期間を業務時間内にセットすること・・・は実現したとは思えないので、「やり方はマニュアルを読め」と言って、考え方中心の引継にすれば良かった。

 

・異動後にもう一度引継をやるべきだった。

新人の仕事といえど、トラブルの前兆を何となく感じる違和感、つまり経験知的なものがある仕事だった。それでも、一通り実際にやってみて全体をおぼろげにも把握して、の段階にならないと、ここの経験知を共有するのは難しかった気がする。

一般人レベルでは「仕事」って、作業から入ってそれが仕事になって、やがてより最適化された作業になると思ってる。守破離的に、意味が理解できるまでまずは型から入るしかない。

そんなわけで、体感では1ヶ月目辺りに、経験知を共有する「異動後引継」をやれば良かったと思う。この作業にはこういう意味があって、とか、こういう言い回しが出てくる時は先方もこだわりを持ってて、みたいな「やり方」的には意味が薄く「考え方」的には重要な部分のフォロー

ま〜前任者に口を出されるのはうざったい人もいるかと思うので、「何となく仕事に慣れてきた」1ヶ月目辺りに、上司を交えてランチか飲みにでも誘えば良かったかな、とプチ反省。

そうすれば少なくとも、マニュアルも文献もほぼ読んでないのに気がつけたろう。

 

・マニュアルは分散してはならない。

今回の一番の学び。読むだけで1ヶ月超かかりそうな分厚いマニュアル・文献と、A4文書3頁のチェックリストがあって、前者を徹底的に読み込もうとする人は限られるんじゃなかろか。

関連する資料は1箇所にまとまってるべきである、という当たり前なことが最後実践できてなかった自分にビックリする。

当時も、変な親切心を起こしてチェックリストを作るんでなくて、あの分厚くも体系だってないマニュアルを再整理すべきだったと思う。一部内容が古くなってたのは確かにあって、でも歴代担当者が残した記録を新人の自分は捨てられなかった。それがいけなかった。

チェックリストを作る時間分、本当は資料をアップデートして、出来るだけ軽量化・体系化して、そうすればマニュアルはマニュアルとして引き継がれていったはずだ(と、信じたい。)

 

ちなみにこの話、学んだこと以外に、やっといて良かったと再認識したことがある。それは、チェックリストを上司に確認取って、認印を押してもらってたこと(何かの本で引継の鉄則的なのを読んでの実践。)

「チェックリストは暫定なので、必ずマニュアルを確認すること」とチェックリストの留意事項に書いた過去の自分ぐっじょぶ。お陰で、今回の話も責任転嫁されずにすんだ。

*1:「自分がしなくても他の誰かがやってくれるよね」な、別名:社会的手抜き現象