先日記事にした「#本棚の10冊で自分を表現する」の1冊目に選んだ本は、「クラフト・エヴィング商會」の『どこかにいってしまったものたち』です。
クラフト・エヴィング商會は吉田篤弘氏と吉田浩美氏による制作ユニットで、文章とデザインとアートが溶け合った作品をこれまで多数発表されています。
こだわりを散りばめた丁寧な本作りに、新作を心待ちにしているファンもたくさんいます。
「#自分を表現する10冊」を考える時、雑貨スキーのルーツとして「クラフト・エヴィング商会の本は入れたい!」と思ったんですが、そこから1冊選ぶのがとても難しかった。
初めて手に取った『クラウド・コレクター』も思い出深いけれど、『どこかにいってしまったものたち』の所有欲で痺れる感じはたまらないし、本棚をテーマにするのであれば『おかしな本棚』も選択肢に入れたい。『ないもの、あります』の程よいユーモア感も捨てがたいし…。
最後はえいやっと、コンセプトも紙面の作り込みも素敵な『どこかにいってしまったものたち』にしたんですが、他の本も語りたい欲がふつふつと。
なので、蛇足っぽくクラフト・エヴィング商會のお気に入り本語りです。たくさんありますが、その中でも特にお気に入りを3つ。
『クラウド・コレクター』
「雲、売ります。」
クラフト・エヴィング商会の先代である祖父が愛用していた古い皮トランク。その秘密ポケットから発見された手帖を三代目が解き明かす、不思議な国アゾットの旅行記。
先代視点の旅行記と、合間に挿入される三代目の解説という構成で、謎と比喩に満ちたアゾットの世界観がすごく好み。散りばめられたオマージュっぽいエピソードも素敵で、余白の推理に浸れます。
『クラウドコレクター』単体でも楽しいんですが、先代が残した未完の「アゾット事典」、『すぐそこの遠い場所』と一緒に読み進めると、味のあるイラストと相まってにやにやが止まりません。
『どこかにいってしまったものたち』
「不思議の品、売ります。」
"架空"のチラシや取扱い説明書、パッケージなどを手がかりに、明治から昭和の時代まで、さまざまな理由により「今は存在していないもの」に想いを馳せる空想カタログ。
架空の品というコンセプトも素敵だし、「よくこんな本作ったなぁ」と感心するほどの本の作り込みに惚れ惚れ。フォントひとつ、チラシひとつが手作業の一点物写真で作られ、本当に存在していたかのような空気感を醸し出して雑貨スキーの心を鷲摑みします。
特に自分は「アストロ燈」が好き。「ボール紙製の箱」の色のかすれ具合や字体、商品解説「アストロ読本」の紙質や文字の古めかしさがレトロさ満点で、ときめくしかない。
『おかしな本棚』
背中が語るとっておきの本の話。
31のテーマの本棚をカラー写真、エツセイつきで紹介する”本棚の本”。
本棚って、本単体とは別の物語を背表紙が語るときがありません?表紙じゃなくて背表紙が並んでいるのも、情報が少ない分いやに空想を掻き立てるというか、あえての余白みたいでわくわくします。「美しく年老いた本棚」とか、自分ならどんな本を並べるだろう、と読みながら思考に浸ってしまった。
あと、本の「さいしょに」の文章が素敵なんですよ。
ぼくにとって本棚とは「読み終えた本」を保管しておくものではなく、まだ読んでいない本を、その本を読みたいと思ったときの記憶と一緒に並べておくものだ。「この本を読みたい」と思ったその瞬間こそ、この世でいちばん愉しいときではなかろうか。
本棚を過去読み終えた本の保管場所にしないのって、素敵な考え方だなーと。探してみたら当時のインタビュー記事があって、これも良かった。
asahi.com(朝日新聞社):並んだ背表紙から広がる世界 クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』 - ひと・流行・話題 - BOOK
よく耳にするけれど一度としてその現物を見たことがない品を語る『ないもの、あります』、18人の人物が架空の仕事師に扮し、詩情豊かに仕事語りする『じつは、わたくしこういうもので』等々、ユーモアと空想の素敵な作品がまだまだあるのですが、さすがに長くなりそうなのでこの辺で。
クラフト・エヴィング商会が作り上げる架空の品々って「"必要なもの"と"手元に置きたいもの"は違う」のをつくづく思い出させてくれる気がして幸せになれます。こう、手のひらに載せたらきゅんと来るようなものに囲まれて暮らしたい。ときめきってこういうものだと。
おすすめするにはちょっとだけ贅沢な価格で、しかも紙で買わないとあまり意味をなさない本ばかりなのですが、もし本屋や図書館で見かけたならば手にとって見てはいかが?といったところで、〆です。