青猫文具箱

青猫の好きなもの、行った場所、考えた事の記録。

小説家になろう乙女ゲーム(悪役令嬢含む)モノ傾向考察。

小説家になろう女性向け界隈の一大勢力といえば、「前世の記憶を持って転生した主人公が、自分のいる場所が前世でプレイした乙女ゲームの舞台であることに気づき、ゲームシナリオを傍観したり抗ったりする」系のジャンル、いわゆる「乙女ゲームモノ」です。「乙女ゲー転生」とも呼ばれます。主人公が悪役ポジションの場合は「悪役令嬢モノ」とも。

外側から見ると「なんか乙女ゲームとか悪役令嬢とか流行ってるなー」で十把一絡げなんだと思いますが、内側で一読者として作品の新規開拓に勤んでいると、同じ乙女ゲームモノといえど傾向が大分変わってきたなと感じる今日この頃。

小説家になろう女性向けのブーム変遷を考察してみた。

そんなわけで、GWの時間を大分費やして調査*1した結果のお披露目として、小説家になろう乙女ゲームもの傾向考察をやります(ノ*゚▽゚)ノ

転生王女は今日も旗を叩き折る 1 (アリアンローズ)

転生王女は今日も旗を叩き折る 1 (アリアンローズ)

 

 

I 乙女ゲームものとは何か

乙女ゲームのこと。

馴染みない方もいると思われるので、乙女ゲーム自体の解説です。

乙女ゲームとは「女性プレイヤーを対象」に「女性主人公を操作」し「複数いる男性攻略対象の誰かと恋に落ちたり、恋愛以外の目標を達成する」ゲームのこと。

攻略対象ごとに設定されたマルチシナリオ・エンディングに心ときめかせ、疑似恋愛に浸ったり主人公の成長を見守るのが醍醐味です。

 

乙女ゲームものとは?

小説家になろうの「乙女ゲームモノ」では、主人公(≠ゲームヒロイン)が、乙女ゲームの世界に脇役(親友、端役、ライバル役、悪役)として「前世で見た乙女ゲーの記憶を持ったまま」転生するのが主流です。ゲームヒロイン(ヒロイン)として転生する例はあまり見かけません。

前世の記憶の乙女ゲー情報を元に、シナリオを傍観したり、我が身に降りかかる不幸フラグを折ったり、単純に乙女ゲーム世界を楽しんだりします。その過程でヒロインの攻略対象と意図せず恋に落ちたり逆ハーレム(複数の男性にチヤホヤされる展開)を奪ったりするのがお約束。

 

脇役な主人公たちの中でも、ヒロインと対立する悪役的立ち位置(ライバル、悪役令嬢)の場合には、特に「悪役令嬢モノ」と呼ばれます。

設定上、乙女ゲームものは「乙女ゲームの二次創作」的な印象と切り離せないため、異世界ファンタジーでいう「異世界召喚で勇者に選定された少年が魔王を倒す旅に出る」的デジャウ感、テンプレ感が起こり得ます。

加えて最近は、先達の乙女ゲームものに設定が引きずられた「乙女ゲームものα」や、乙女ゲームはプレイしたことがないけど書きました!という「乙女ゲームものβ」も登場し、乙女ゲーム本家とは大分解離してきたような...?

そろそろ、乙女ゲーム本家に「乙女ゲームの世界に悪役として転生した主人公(プレーヤー)がシナリオ改変を試みる!」とか逆輸入されそうな雰囲気です。

 

乙女ゲームものジャンル傾向

乙女ゲームものは、ゲーム情報を前世の知識として持った上で、傾向として、次の1.~4.の展開となるのが主流。さらに発展系としてのメタパロディ、5.も最近充実してきて嬉しい。

  1. 傍観系:脇役としてシナリオを傍観or面倒ごとに巻き込まれたくないのでヒロインとの接触を極力回避する
  2. 改変系:自分や周囲に降りかかる悲劇的未来を変えるため、シナリオ改変を試みる
  3. 逸脱系:シナリオ無視、ゲーム設定や登場人物の基本スペックを活かしてゲーム世界を謳歌する
  4. 晩成系:すでに取り返しがつかない状況で前世の記憶を取り戻し、汚名返上・復讐を図る
  5. メタ系:小説家になろう内での乙女ゲームものブームを背景に「乙女ゲームもの」自体をパロディ、ギミック(仕掛け)として扱ったもの

もう少し詳しく見てみましょうー。

 

II 乙女ゲームものジャンル傾向

メタパロディで解説不能な5.を除く、1.~4.について深堀り解説します。ブーム体感的には割と1.→2.→3.→4.の時系列的に傾向が移ってる印象。パッシブ(受身)からアクティブ(能動)へ、より自由度を広げてる感じですかねー。

 

1.傍観してない「傍観系」

脇役としてゲームシナリオを傍観したり、面倒ごとを嫌ってヒロインや攻略対象との接触を回避しようとするうち、かえって泥沼にはまるように巻き込まれていく展開。

「ゲームシナリオという未来を知る分賢く立ち回れる」、「ゲーム設定上は脇役のため活躍しなくても問題がない」というヒロインに対するリーチがあるため、「凡人が英雄に感じる局所的優越感」を味わえます、なんていうと穿った見方かな。

主人公の成長や葛藤を見せるため、キラキラしたヒロインと対照させつつ、「脇役"だから"主人公にはなれない」→「脇役"だけど"主人公として行動したい」への変化の見せ場が用意されているのはお約束です。

 

2.既定された未来に抗う「改変系」

自分や周囲に降りかかる悲劇的未来を変えるため、シナリオ改変を積極的に試みる展開。つまり、フラグ折りに奔走します。

タイムトラベルといえば、未来を知る人物の行動が過去にどう影響を与えるか、な一種推理もの的カタルシスが魅力ですが、「ゲームシナリオに既定された未来」の改変、という意味で、乙女ゲームものでも同じ醍醐味が味わえます。

さらに、未来の改変と並んで、どう足掻いても結局はシナリオ通りに進行する、つまり「ゲームの強制力」に対する葛藤や恐怖が描かれた良作も多い。どんなに抗っても唯人には変えられない運命的な。...ていうと余計、タイムパラドクスな味わいも加わって、興をそそりません?

 

3.ギャップ狙いの「逸脱系」

「AなのにB」というギャップって、人の心を捉えて離さないですよね。美少女なのに一人称僕、不良なのに雨の日に子犬を拾う。いわゆるギャップ萌えというやつです。

「逸脱系」は、乙女ゲーム世界という設定「なのに」、ゲームのシナリオ無視で、ゲーム設定や登場人物の基本スペックだけ活かして話が進む展開。幼少期スタートダッシュ(幼少期に前世の記憶を取り戻し、幼い頃からの自分磨きでカリスマ化)でスペックを上げ、周囲からリードするのが定番です。具体的には、幼少期から体を鍛えて騎士になったり、魔法を極めて仕官したり。

上手い作家さんだと、どんなにシナリオを逸脱しても結局は既定の未来に収束する、という上記の「ゲームの強制力」と絡めた展開に持ってったりして侮れない。

 

4.遅れて目醒めた「晩成系」

3.とは逆に、すでにゲームシナリオ終盤に差し掛かった段階で「乙女ゲームをプレイした前世の記憶を取り戻す」展開。例えばヒロインを選んだ婚約者に振られた直後、悪事がばれて社会的制裁を受けた後、など。

どん底スタートになるため、ひたすらage展開でも違和感がなく、読者のヘイト(悪感情)を貯めずに話を進めることができます。最初からクライマックスだぜ!てやつですね。いかにもハードモードな始まり方は、ちょうどぬるま湯チートに飽きた読者の心を鷲掴みします。

計算高いヒロインが世慣れない主人公を窮地に追い込んだ後、主人公が記憶を取り戻し、作られた汚名の返上に奔走するバージョンもあります。この場合、終幕はヒロインや情けない攻略対象に向かってm9(^Д^)(プギャーwとかざまぁ)するのが様式美です。

 

III 書籍化作品に見るジャンル傾向

小説家になろうのランキングなどで人気が出、書籍化されていった乙女ゲームものを、 これまで解説したジャンル傾向で分類してみました。長くなったので分けました!

小説家になろう乙女ゲーム&悪役令嬢モノ書籍化リスト。

オススメを3つ挙げるなら、「転生王女は今日も旗を叩き折る 」と「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」と「恋をしたら死ぬとか、つらたんです! 」かな。次点で「ヤンデレに喧嘩を売ってみる!」。

 

Ⅳ なぜここまで流行ってるのか論。

最初に「主人公がヒロインに転生する例はあまり見かけません」と書きましたが、これはヒロインというシナリオに縛られた存在がストーリー上動かしづらい以外に、ヒロインという「幸福が約束された存在」の対「平凡な存在」が読者の共感を呼びやすいのも理由だと思われます。

川上徹也氏の書いた本では度々「ストーリーの黄金律」という考え方が登場しますが、

読むだけであなたの仕事が変わる 「強い文章力」養成講座

読むだけであなたの仕事が変わる 「強い文章力」養成講座

 

 ストーリーの黄金律

  1. 欠落した、もしくは欠落させられた主人公が
  2. 遠く険しい目標に向かって
  3. いろいろな障害や葛藤、また敵対するものに立ち向かっていく

この3つの要素が揃うと、人類共通の感動のツボになるというもの。少年ジャンプっぽいですね。乙女ゲー世界転生の主人公も、このストーリーの黄金率の実践してるんじゃないかな、と。

  1. ヒロインになれない脇役の主人公が(欠落した、もしくは欠落させられた主人公が)
  2. ゲーム設定の枠を越えようと(遠く険しい目標に向かって)
  3. ゲームシナリオに抗ったり、フラグを折ったり、ヒロインに立ち向かったりしていく(いろいろな障害や葛藤、また敵対するものに立ち向かっていく)

という具合。しかも売り切りの単行本と比べると、定期購読で最初がつまらないと見切られるWEB小説では、スタート地点でストーリーの黄金率の要素を満たし、読者の興味を買うのは有効な手法です。

週刊誌なら10週ぐらい使って説明される主人公の過去やら壁やら葛藤が、数行で説明できるわけですし(例:乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたがギロチン処刑フラグが立ってます。)

 

そんな感じに、小説家になろうでストーリー没入しつつもその時ごとのブーム変遷だったりに思いを馳せたり理由を考えたりするのが楽しいな、という記事でした。ブームには発火点と背景と特徴があってほしいという変わらない乙女ゴコロです。

 

関連記事

*1:単にGW期間中、小説家になろうで「乙女ゲーム」タグの小説を読み漁っただけともいう。