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青猫文具箱

本と文房具を愛でる日々。

小説家になろう「悪役令嬢モノ」のブーム変遷を考察してみた。

小説家になろう

小説家になろうのブックマークを整理したところ、いわゆる「悪役令嬢モノ」の既読が150作品を超えました。

悪役令嬢モノというのは「前世でプレイした乙女ゲームor愛読していた少女漫画の世界に転生した主人公が、自分はヒロインをいじめる悪役の立ち位置にいることに気がつき、シナリオで予定されたバットエンドを回避するため東奔西走する」系ジャンル。

小説家になろう内の小説を検索すると、「乙女ゲーム」で2500作品、「悪役令嬢」で1500作品以上ヒット(2016年5月1日現在)する人気ジャンルで、ランキングでも度々上位に上がってきます。

以前このブログで、小説家になろうの乙女ゲーム&悪役令嬢モノ考察をしてますが、

小説家になろう乙女ゲーム(悪役令嬢含む)モノ傾向考察。

最近、またブームが変わってきた気がするんです、悪役令嬢モノ。Web小説に興味がない人からは、なろうテンプレの一種として十把一絡げにされるであろうことは想像に難くないですが、でも違う。系統立てて分類出来ちゃうくらいバラエティ豊かに育ってます。

テンプレートというのは、面倒な部分を省略して自分が書きたい部分に集中するための補助器具であると同時に、「俺ならこの設定はこうするぜ」「俺はこのお約束を逆手にとってやる」といった形で多様性を生み出すジェネレーターでもある。

「小説家になろう」のWeb小説における異世界ファンタジー類型まとめ - WINDBIRD

むしろ、安定したOSもしくは汎用アプリが確固たる形で存在して、その「範囲の中で」さまざまな可能性を追求するのは、凄い想像力の多様化を生むと僕は思っています。魔法少女モノからマドカマギカが生まれたように、長く続いているものは、プラットフォームとなって、その中にある可能性をあらゆるレベルまで追求させていくことになります。範囲が限定されてフォーマット、プラットフォームがあるほうが、多様性の展開は深まるんですよ。

Web小説ってなんなの? 画一化したプラットフォームの上で多様性が広がること〜僕たちはそんなに弱くもないけど、そんなにも弱いんだろうね(笑) - 物語三昧〜できればより深く物語を楽しむために

これ体感として納得できるんですが、悪役令嬢というテンプレに色んな作家が参入したことで、多様性が生まれた面ってあると思うのです。そしてその変化をリアルタイムで追っかけられるの楽しい...!

そういうわけで、久方ぶりに小説家になろう考察、しかも範囲を絞った「悪役令嬢モノ」のブーム変遷を見ながら、そのバラエティ豊かさを噛みしめようという内容です。

実際どんな代表作があったの?については、乙女ゲームモノ&悪役令嬢モノの書籍化リスト記事を紹介して今回は省略します(サボり気味なんですがまた更新予定)。

小説家になろう乙女ゲーム&悪役令嬢モノ書籍化リスト。

 

悪役令嬢モノの構成要素

変遷の前にまず、悪役令嬢モノで「テンプレ」とされる要素について、「舞台設定」「主人公の目的」「物語の時間軸」「ヒロイン」「ヒーロー」の5つの点から整理をば。そうしないと、何が変わったのか分かりづらいので。

紛らわしいですが、主人公は"なろう小説の主人公"ヒロインは"「前世でプレイした乙女ゲーム」or「愛読していた少女漫画」の主人公"として読んでください。

 

舞台設定

自分は悪役令嬢モノのことを、乙女ゲームモノの派生として捉えています。以前、なろう女性向けのブーム変遷について考察したのですが、

小説家になろう女性向けのブーム変遷を考察してみた。

ヒーロー・ヒロインポジションから一歩引いた、傍観・巻き込まれ型の「脇役」主人公がなろうで流行り、物語舞台を「乙女ゲーム世界」(又は少女漫画世界)に置くジャンルが女性向けで増加、そこからの派生として、脇役の中でもヒロインと対立する悪役的なポジション(つまりは「悪役令嬢」)が大流行したという考察。

ここで言及される乙女ゲームや少女漫画は「良家の子女が通う学園に通うことになった庶民派ヒロインが、持ち前の明るさを武器に、数々の困難を乗り越え、最後はヒーローとハッピーエンドを迎える」シナリオの場合が多いです。

登場人物が集合しずらいので、学園もの要素を取り入れない作品は少なめ。その場合には後宮や舞踏会、お茶会などが舞台の中心になります。例えば「悪役令嬢後宮物語」が、名前のとおり後宮を舞台にしてます(ただこれは転生モノではない)。

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

 

時代設定は現代のこともあれば中世な西洋のこともありますが、やはり西洋ファンタジーが多め。剣と魔法の世界で、ヒロインは特別な才能を持っており~というのも常套句です。現代設定で書籍化した悪役令嬢モノは「お前みたいなヒロインがいてたまるか!」くらい?

お前みたいなヒロインがいてたまるか! 1 (アリアンローズ)

お前みたいなヒロインがいてたまるか! 1 (アリアンローズ)

 

舞台設定のオリジナル(原型)について、乙女ゲームや少女漫画が存在するのか考察したことがありまして、

悪役令嬢の歴史を漫画&ゲームから辿って考察してみた。

漫画だと「キャンディ・キャンディ」「花より男子」、ゲームだと「マイネリーベ」が条件を満たすのかなぁと。でもなろう作者の年代と合わないのもあるので、実際はなろう内で再生産が繰り返された結果、独自の「なろう乙女ゲー」的なものが出来上がった説を個人的に押してます。夢小説が原点なので原形乙女ゲーは存在しない説もありますねー。

 

主人公の目的

前世の記憶を持っていることによる「シナリオで予定されたバッドエンド(=ヒロインにとってのハッピーエンド)の回避」が主人公の目的。バッドエンドの回避=カタルシスの解放という、わかりやすい物語構成です。

バッドエンドの定番は「悪役令嬢が、婚約者(ヒーロー)を奪われた嫉妬からヒロイン排除を目論み、しかし最後はヒーローの手により公の場でその罪が糾弾され、婚約破棄」というもの。

これに、一族没落、処刑、修道院送りなどのいわゆる「破滅フラグ」がオプションでついてきます。「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」「婚約破棄系悪役令嬢に転生したので、保身に走りました。」なんてそのものずばりのタイトルも。 

婚約破棄系悪役令嬢に転生したので、保身に走りました。 (レジーナブックス)

婚約破棄系悪役令嬢に転生したので、保身に走りました。 (レジーナブックス)

 

 

物語の時間軸

幼少時に記憶を取り戻し(又は生まれた瞬間から記憶を持ち)、チートな現代知識を活用して神童と呼ばれるのがなろうテンプレの王道(多分)ですが、悪役令嬢モノでもこのパターンは多いです。一番よく見かけるのが「幼少期、乙女ゲームの攻略対象に初めて出会った(名前を聞いた)瞬間に思い出す」パターン。

この場合、幼少期を使って攻略対象のトラウマ(乙女ゲーム期間にヒロインが解決するためのもの)を発生させない、いわゆる「フラグを折る」という展開になります。「転生王女は今日も旗を叩き折る」なんてその名のとおり。

転生王女は今日も旗を叩き折る 1 (アリアンローズ)

転生王女は今日も旗を叩き折る 1 (アリアンローズ)

 

他には「乙女ゲームの開始時点(期間中)に記憶を取り戻す」パターン。この場合は、前世人格の影響で、人が変わった悪役令嬢の振る舞いを周囲に怪しまれる→取り繕う、というエピソードも定番。「俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで」のようにバレまくりのこともありますが。

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで

 

そして最後、「バッドエンド確定直後に前世の記憶を取り戻す」パターン。一番多いのは、婚約破棄された瞬間にショックで(自殺を図って)記憶を思い出すというやつです。「最初からクライマックスだぜ!」から始まる物語なので俄然盛り上がります。書籍化作では思いつかないですが、死後幽霊になってヒロインたちに復讐、国家滅亡を目論む系とか個人的に好み。書籍化作だと、破滅フラグ度合い低いですが「公爵令嬢の嗜み」が、婚約破棄から始まる物語ですねー。第2の人生で領地経営系。

公爵令嬢の嗜み<公爵令嬢の嗜み> (カドカワBOOKS)

公爵令嬢の嗜み<公爵令嬢の嗜み> (カドカワBOOKS)

 

 

ヒロイン

ヒロインの造形は、乙女ゲーム(又は少女漫画)らしく「明るく前向きで恋愛には鈍感」設定のことももちろんあります。それこそ、なろうの悪役令嬢モノで最有名と思われる「謙虚、堅実をモットーに生きております!」の若葉ちゃんとか。良い子。

謙虚、堅実をモットーに生きております!(作者:ひよこのケーキ)

ただ、なろう内で定番とされるヒロイン造形は「前世の記憶があり、シナリオを悪用して逆ハーレム(イケメン男性陣を取り巻き化)を作ろうと暗躍する性悪女」が多いです。いわゆる「転生ヒロイン」

話の展開的に、悪役令嬢がヒロインのポジションを乗っ取ることになりがちなため、NTR属性が嫌われるのと同じ理由で、悪役令嬢に正統性を与えるためのネガティブ属性がヒロインにつけられる印象。「ヒロイン成り代わり」といわれたりします。

また、最初は敵対するけれど改心して主人公の親友or崇拝者になるケースや、最初から「ヒーローには興味ありません」設定をヒロインにつけるケースもあります。書籍化だと例えば(あ、でもこれネタバレになるから自重)。

 

ヒーロー

乙女ゲームの攻略対象。当然イケメン。ファンタジー舞台だと、皇太子、貴族、騎士、魔法使い、暗殺者、留学中の隣国の王子様が属性として定番。現代舞台だと、生徒会メンバー、運動部のエース、幼馴染、留学生あたりですかねー(現代生徒会モノの場合、高い確率で俺様会長に腹黒副会長、チャラい会計と双子の書記が出てくるのは何故だろう...由来はジュディハピ?桜蘭高校ホスト部?)

ヒーローにはシナリオ上のトラウマが設定されているケースが多く、幼少期スタートの物語ではトラウマを発生させないように悪役令嬢が東奔西走するのも定番です。それをきっかけにヒーローは悪役令嬢に感謝して(原作では不仲になる予定なのに)良い雰囲気になる、みたいな。要は「ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです」のリコリスとヴォルフ。

ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです 1 (アリアンローズ)

ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです 1 (アリアンローズ)

 

バットエンド確定後スタートの場合、ヒーローは「ヒロインの逆ハーレム化した恋愛脳の無能」として描かれることも多いです。今はこれが主流かなー。性悪転生ヒロインと逆ハーレムたちに「ギャフン」といわせる悪役令嬢モノは通称「ざまぁ」と呼ばれています。

 

悪役令嬢モノのブーム変遷

以前乙女ゲームモノの傾向分析を、

1.傍観系:脇役としてシナリオを傍観or面倒ごとに巻き込まれたくないのでヒロインとの接触を極力回避する

2.改変系:自分や周囲に降りかかる悲劇的未来を変えるため、シナリオ改変を試みる

3.逸脱系:シナリオ無視、ゲーム設定や登場人物の基本スペックを活かしてゲーム世界を謳歌する

4.晩成系:すでに取り返しがつかない状況で前世の記憶を取り戻し、汚名返上・復讐を図る

5.メタ系:小説家になろう内での乙女ゲームものブームを背景に「乙女ゲームもの」自体をパロディ、ギミック(仕掛け)として扱ったもの

小説家になろう乙女ゲーム(悪役令嬢含む)モノ傾向考察。

と書いたのですが、悪役令嬢モノも大枠はこの流れで変遷してる印象です。

悪役令嬢モノの場合、何もしないとバッドエンドなので「1.傍観系」は少ないと思われがちですが「前世の記憶はあるけれど敢えてヒロインを虐める悪役を全うする」系の行動を取る悪役令嬢モノもあります。「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」とか。

この場合は「悪役令嬢になる理由」が明かされていく構成が楽しかったり。その意味で「ヒロインな妹、悪役令嬢な私」は、書籍化タイトルよりも旧タイトルの方が伏線回収的に好きだったなぁ...。

  

悪役令嬢モノのブーム変遷としては、バッドエンド回避のためにシナリオ改変を試みる「改変系」がまずブームの中心になり(特に初期の書籍化組「ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです」「転生王女は今日も旗を叩き折る」)、それがパターン化するうち、乙女ゲームのシナリオ無視でゲーム設定や登場人物の基本スペックを活かしてゲーム世界を謳歌する「逸脱系」が増え(「張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。」「乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが」「乙女ゲーム世界で戦闘職を極めます -異世界太腕漂流記」)、敢えて悪役令嬢を全うする「傍観系」がちらほらと誕生しつつ(「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」)、すでに取り返しがつかない状況で前世の記憶を取り戻し、汚名返上や名誉挽回、復讐を図る「晩生系」がここのところ主流になった(「公爵令嬢の嗜み」「悪役令嬢改め、借金1億の守銭奴令嬢です」)印象。

1年前はあまり目に入らなかったのですが、悪役令嬢の従者や取り巻き、はたまた攻略対象に転生し、悪役令嬢を誘導しながら悲劇を回避していく「誘導系」もポツポツ人気作で見かけます(「どうやら乙女ゲームの攻略対象に転生したらしい」「取り憑かれた公爵令嬢」)。その中でも「取り憑かれた公爵令嬢」は程よい長さで完結済みですし、二人三脚の友情ものとして好きだなぁ。

取り憑かれた公爵令嬢 1 (アリアンローズ)

取り憑かれた公爵令嬢 1 (アリアンローズ)

 

悪役令嬢自体をネタ的に扱う「メタ系」は割と以前から多いのですが、悪役令嬢モノ自体がWeb小説界隈ですら広がっていないので割愛。パロディとしてすごく好きなんですけれどね、前衛的悪役令嬢シリーズとか。でも、悪役令嬢のコンテクスト(文脈)を共有してないと笑えない気もする。

...というか、なろうを読まないライトノベル読みの方々にとっては「乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが」あたりのタイトルって「どこで聞いたんだよ」になっちゃうんでしょうか。

乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが (レジーナブックス)

乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが (レジーナブックス)

 

みかみてれん先生が、旧タイトル「乙女ゲーなのに恋したら死ぬとか、つらたんです」を「恋したら死ぬとか、つらたんです」に変更した時は、「乙女ゲー"なのに"」てほど認知が広がってないから英断だよね、と思ったのですが、ここら辺自分の中で麻痺してきてる気がする...。 

ランキングに上がってくる作品は、以前は実家没落や処刑といった物騒なバッドエンド回避がメインでしたが、最近は「学園の卒業式に婚約者の王子様から婚約破棄を告げられる」ので、それを避けたり、むしろ婚約破棄されてもいいように今後の身の振り方を用意する(自活力を上げたり根回しに回ったり)、「婚約破棄系」が主流になった印象です。...というより、悪役の冠が取れて「婚約破棄系」貴族令嬢モノが増えている...のかな。これからの展開が気になっています。

 

終わりに

そんな感じで、小説家になろう「悪役令嬢モノ」のブーム変遷を考察してみる記事でした。バラエティに富んでる感、ありません?

と言いつつも自分、あと読んでいない作品が1000作以上ある訳で、また別の世界がその1000作には広がってる訳ですよ。きっとダイヤの原石が埋まってる...!最近全く活動していないけれど、元スコッパーとして埋もれた名作を掘り起こしに行きたい。

ただ、それらの雑誌読むときとなろうであれこれと読み漁っているときの感覚は全く違うんだよねえ。やっぱりね、よっしゃこれからガッツリ読むぞ!って感覚なんですよ。なろう読むときのちょー気楽に、面白くない場合もあるってことを織り込み済でとりあえずパラパラ読むって感覚は漫画雑誌のほうがより近い。

なぜわざわざWeb小説なんて読むの? - 敷居の先住民

この表現いいなぁと思うんですが、「面白くない場合もあるってことを織り込み済でとりあえずパラパラ読む」楽しさは、なろうが格別だと思うんです。そんな訳でまた潜ってきます。

 

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