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青猫文具箱

本と文房具を愛でる日々。

優しさに迷う夜は河上朔先生の「wonder wonderful」で自分を取り戻す。

wonder wonderful。異世界への常習旅行者な妹、の良き理解者である姉が、妹のために異世界に飛び込んで、そして大人だからこそ試行錯誤する物語。河上朔先生のサイト「therehere」で公開され、話題になって書籍化された作品です。

ネットで見つけた時が完結前夜で、正直、リアルタイムに小説更新追っかけられなかったのが今でも悔しい。 徹夜で夢中で読んで、この手のものが好きそうな友人に拡散しました。

 

当時はネット小説発の書籍化って珍しく、レインや迷宮クロニクル的な本当に人気で話題の多い作品群しか書籍化してなかった気がする(ソードアート・オンラインも初版この時期だった気が)。

なので、少女小説系がやおろずだったり道果ての向こうの光だったりが立て続けにイーストプレス(現在のregaloシリーズですね)からデビューした時期の高揚感は半端なかったなぁ・・・!!

一冊だけでなく、布教用に二冊買いました。そして電子書籍も買った。だって好きなんだもの。今だって「女性向け、少女向け小説でオススメは?」と聞かれたら、断然regaloのこの時期の小説群を答えます。もう、自信持って胸を張って。

 

で、その中でもwonder wonderfulは別格なんです、なぜかといえばこかげさんが主人公だから。迷いながらも前向きで、気ぃ遣いしぃなくせに頑固で、でもしなやかに意思を通すからそうは見えない。そして名前のようにとても優しい

大人の女性ってこういう人をいうんだと、ずっと憧れてた。「あなたの理想の女性像は?」と聞かれたら、迷わず「こかげさん!」と思う時期があったくらいです。というか、今も変わらない。優しさに迷う夜はwonder wonderfulを読み返す。 

そして、悲しいわけでもない、感情が昂ぶったわけでもない、それでも思わず涙する、優しさに泣けることがあると教えてくれた小説です。いつだってオススメ。

 

wonder wonderful 上・1(作者: 河上朔)

優しさに泣けるんです、

wonder wonderful 上・1 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 上・1 (レガロシリーズ)

 

ネットで話題になった時、社会人異世界トリップ+恋愛もので一回敬遠したのですが、なぜもっと早く読まなかったのかと、読了後に後悔したのは懐かしい想い出。

彼女が主人公なら、異世界トリップものじゃなくてOL生活ものでも良いくらい、こかげさんの一人称と行動が素敵すぎる。それぐらい理想的な、20代女性像なのですよねー。
そんなこかげさんが、異世界の傍観者から、助言者となり、主人公となっていく物語。胸キュンラブ要素はありますが、むしろこれはハートフルにヒューマンなファンタジーだと思う。

人の優しさがあったかくて、優しさに泣ける。そして、読むたび泣ける場所が違う。忘れていた何かを取り戻すような、“あたたかくて、いとしいもの。

 

 wonder wonderful 上・2(作者: 河上朔)

とても優しい、彼女の護衛たち。

wonder wonderful 上・2 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 上・2 (レガロシリーズ)

 

「上・1」で思いの丈を書ききってしまったので、主に書籍書き下ろし「彼女の護衛たち」について。

3人がコカゲの護衛となって、ちょっと仲良くなって、でもコカゲが街をおりて、そして静かに許されるまでの一時。夏の日差しのように真っすぐなシーリーの「彼の苛立ち」、冬のように厳しくでも繊細なヨーサムの「彼の後悔」、そして案外大人じゃない、春の日だまりみたいなラシュの「彼の企み」。

もう、とにかく愛しさがこみ上げて、体がふわふわする。3人が、コカゲにしたことをぐるぐる悩んで、ぶつかって、背伸びして出来ることを頑張って。あぁ、可愛いなぁ。
ファンタジーな舞台なのに、恋とか忠誠とか友情とか、そんなわかりやすい感情ではなくて、もっと曖昧で優しい何かに、胸の奥がきゅうってなる。

 

 wonder wonderful 下・1(作者: 河上朔)

はらはら、降り注ぐ、優しい花びら。

wonder wonderful 下・1 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 下・1 (レガロシリーズ)

 

こかげさんが「しごと」をみつけて、動き出して、認められて、妹を迎えにいく覚悟をするまでの話。

こかげさんが動いて、人に波紋が広がって、そして。ひなたが長い時間をかけて準備した「ザキくんのためのお祭り」を、ちゃんとザキくんに見せてあげるバルコニーのシーンが大好きです。さすがおねえちゃん。優しさの圧が強すぎて、息すら苦しくなる

久々再読で、新たな気づきが多いなーと。こかげさんの不安は結構根が深かった、とか、あの人は結構前からこかげさんを見守ってた、とか。あと、何よりシルヴィ。「君がくれた世界」読了後だと、こかげさんは本当に、シルヴィのために世界を渡って来たんじゃないかと思える。

 

 wonder wonderful 下・2(作者: 河上朔)

ゆるんで、ほどけて、新しいかたちになる。

wonder wonderful 下・2 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 下・2 (レガロシリーズ)

 

ハートフルにヒューマンなファンタジー完結編。優しくて、あたたかくて、読了後は誰かに会いたくなる。

鉄板の本編を横に置きつつ。書き下ろし番外編「朝」が、改めて読むと味わい深くていいなー。イルサムさまの後悔と救済。短い頁に凝縮された、かつての優しい日々とそれ故の絶望。そこからの、こかげとひなたがもたらした「東の庭」の優しいお茶会。
「お前を誘いに来たんだ」で過るイルサムさまと隊長の間の空気感、がとても好き。

完全に蛇足ですが。浜辺のシーンはバルコニーのシーンの次くらいに好きだけど、局地的に発生した恋愛成分の密度が濃すぎて、胸が苦しくなる。胸焼け的な意味で。いや大好きだけど。

 

wonder wonderful 君がくれた世界(作者: 河上朔)

ありふれた言葉で言えば「珠玉の短編集」

wonder wonderful 君がくれた世界 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 君がくれた世界 (レガロシリーズ)

 

待ち遠しくて手に入れた本が、期待通りの面白さで。でも残りのページが少なくなると、終わってしまう寂しさからソワソワと頁を捲る手が止まりがちになる本、あると思います。そういう本です。

どの短編も、小一時間余裕で語れるくらいには切なくていとおしい。おろしたての、ひんやり柔らかなシーツのように、清涼感や優しさあふれてる。

中でもシルヴィの「何度でも」は何度読み返したことか。その奇跡的な出会いに泣いて、シルヴィの思ったよりずっと長かった健気さに泣いて。そして本編でもう知ってたはずのラスト、その幸福の予感に泣いてしまう。
タイトルの「君がくれた世界」。シルヴィに優しい世界をくれたのは、誰なんだろう。

 

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